ゼ リカルドが2022年にバスコを指揮した試合の映像は確認できたけれど・・・
今回の記事では、ゼ リカルドのサッカーに関して調べたことを書いてみたい。
以下の前回記事でも書いたが、日本に住んでいる自分はゼ リカルドが監督をした最近の試合のフル動画を確認する機会は非常に限定されている。
それでも、2022年3月に行われた試合のフル動画ならば、いくつかYouTubeで確認できた(この記事の後半で紹介)。
しかしながら、その前のバスコがどうで、また、それ以降バスコがどうなっていったかは確認できていない。
しかも、確認できた2022年の映像は4試合だが、うち3試合はフラメンゴ戦だ。この記事後半で書く理由のように、これらフラメンゴ戦中心の動画だけで、ゼ リカルドの手腕を判断するのは偏りがある気がする。
また、自分はブラジルの現地でも彼の指揮する試合を見たことがない。
断片的な情報しか収集できていない自分は、「ゼ リカルドの戦術はこうだ!」とか「ゼ リカルドの手腕で清水エスパルスはこう変わる!」など語ることはできない。
しかしながら、映像や記事などを調べてみて、今後の清水エスパルスについて想像を膨らませる材料にはなるかもしれないと思い、紹介したいと思う。
ゼ リカルドは4-1-4-1を好む?
ゼ リカルドがフラメンゴの若手を指導していた2015年、そして2016年頃。
ブラジルの大手メディアのグローボに対し、ゼ リカルドは4-1-4-1のフォーメーションの利点を以下のように語っている。
(フォーメーションは実際に所属する選手次第な所もあると前置きした上で)4-1-4-1は選手に落とし込みやすく、かつ、選手交代をすることなく、試合の流れに合わせ4-4-2や4-2-3-1に柔軟に布陣を調整できる。
(Globo Esporte 2015年3月22日)
(Globo Esporte 2016年1月22日)
実際、当時のゼ リカルドが試合で4-1-4-1を採用している様子がうかがえる。
例えば、以下動画のように2016年に開催されたブラジルの若手の登竜門の大会でゼ リカルドが率いるフラメンゴの予想スタメンは4-1-4-1に近いフォーメーションになっている。
2016年コピーニャ決勝(現清水のホナウドがスタメン)動画をクリックするとフォーメーションが表示される
2016コリンチャンスU20vsフラメンゴU20(ゼ リカルド監督)フル動画
2022年6月5日まで率いていたバスコ・ダ・ガマでは4-2-3-1?
しかしながら、さらにいくつかの動画や記事などを調べると、必ずしも4-1-4-1でないことがわかる。
例えばゼ リカルドが最近まで率いていたバスコ・ダ・ガマでは、4-2-3-1でスタートしつつ、攻撃時・守備時など、その時々の状況に応じ、4-4-2に変形したりと2枚のボランチをベースに戦っていることもあったようだ。
以下の動画をクリックすると、攻撃の組み立て時、ディフェンスラインがボールを動かしている際、ボランチ2枚が間で受けられるポジションをとっているのが表示される。
(動画ではボランチがボールを受けられる位置に動くが、ボランチを使わず、前線に一度当てて、外に開いた選手を使う様子が映し出される)
また、この下の動画をクリックすると(上と同じ動画のためサムネイルは同じだが、動画が始まる位置が上と異なるように調整してある)、守備時には4-4-2に近い形で守り、奪った後に、バスコがボールを運び持ち上がる様子が見て取れる。
清水エスパルスでどのような基本布陣を採用するかに関して、守備の枚数は4枚の4バックなのだろうが、そこから前は選手の特性などを見ながら考えられるのだろう。
ゼ リカルドがシーズン途中から自分のやり方を落とし込むのも簡単ではないだろうが、どんなフォーメーションを採用するのか注目している。
プレスのかけ方は?
DAZNで放送された2021年の清水エスパルスのドキュメンタリーで、守備時のプレスの掛け方で葛藤するエスパルスの様子が映し出されていた。
前からプレスをかけた方が良いのではと意見する日本人コーチ陣と、「2020年にそれをやって失点しまくったじゃないか」と強く反論しブロックを組んだ守備を主張するスペイン人コーチとロティーナ監督。
ドキュメンタリーのこのシーンをよく覚えていている自分としては、プレスをかけ始める位置も気になる点だ。
この記事の後半で紹介するゼ リカルドが指揮したバスコの試合映像の動画を見ると、常に引いてブロックということでもなく、だからと言ってやたらと前線から追いかけまくるというのでもない。強く当たりに行ける場面では、強く相手に寄せつつ、むやみに飛び込まず構える守備をしたりもしている。
尚、上に貼り付けた2枚の動画/フォーメーションの項目で紹介した2つのYouTubeの投稿者、及び別のYouTube配信者が、ゼ リカルドは前から積極的にプレスをかける的なことを言っているのを見た。
しかしながら、日本の夏場に90分走りまくって前からプレスをかけるのはしんどいだろうし、この記事後半の試合映像を見る限り、常に前からプレスをかけまくっているというわけではない。
何はともあれ、エスパルスのクラブフロントは失点が多かった過去の反省などを踏まえ、新監督候補たちの攻撃及び守備を比較分析し、そのうえでゼ リカルドを選び、エスパルスの新監督にオファーしているだろうし、そうであって欲しい。
新監督がどんなプレスのかけ方をし、どんな守備をするのかも注目点だろう。
攻撃的か守備的か
以前の以下記事でも書いたが、自分が南米の知り合い数人にゼ リカルドの印象を聞いたところ、「ゼ リカルドは攻撃的」という回答があった。
また、フラメンゴ時代に指導を受けていた現清水のホナウドも、ゼ リカルドな「攻撃的なサッカー」と回答している。
静岡新聞電子版2022年6月8日
ただ、一般的に、攻撃の組み立てをチームに植え付けるのは、守備の構築より時間がかかる傾向にあり、シーズン途中の就任でいきなりゼ リカルドが自らの攻撃スタイルを植え付けるのは容易ではないだろうから、エスパルスファンにもある程度の忍耐力は求められるのだろう。
また、独自の攻撃スタイルを持ったピーター・クラモフスキー監督を擁したものの、うまくいかなかった2020年の苦い記憶があるだけに、不安な点もある。
ただ、クラモフスキーやロティーナの時と違い、ブラジル人監督、ブラジル人コーチングスタッフと、エスパルスのブラジル人が同じ言葉、同じサッカー文化でコミュニケーションを取れるのは大きいと思う。
サッカーとはこういうもんだというサッカー観とリズムの変化に関するブラジル人と日本人の考え方のちがい
サッカーはどこの国でも同じルールでプレーされる。
しかし、各々の国によって「サッカーとはこういうもんだ」と国民・選手一人ひとりに染み込んでいるイメージがかなり異なる。
ブラジル人が話すポルトガル語と比較的似ているスペイン語を話すロティーナが監督時代、ブラジル人選手たちとロティーナ監督やスペイン人コーチは言語の類似性から通訳なしである程度のコミュニケーションは取れたかもしれない。
しかし一方で、「サッカーとはこういうもんだ」というサッカー観には違いがあったと思う。
そこを考えたときに、歴史的にブラジルのサッカーを大切にしてきた静岡のサッカー文化のなか育った人が多く詰めかける静岡・清水のスタジアムに、Jリーグで1番多いかもしれない人数のブラジル人選手を抱える清水エスパルスが、ブラジル人監督を迎えるというのは、欧州などから監督を連れてくるよりいい考えだと思う。
個人的に心配なのが、ゼ リカルドとブラジル人スタッフが日本のサッカーが、他国のサッカーに比べリズムの変化が少ない、やたらと一定のリズムでプレーすることに戸惑わないかという点だ。
ブラジルなど中南米では試合の流れによってサッカーのリズムを変えることが体に染み付いている。
中南米では、少しゲームを落ち着かせるべくボールをゆっくり回したり、試合中に選手たちが独自の判断で試合のリズムを調整する。
しかし決まりを作り、その決まりを守ること、一度決めたことや、上から言われたことを守ることが重視される社会に生きている日本人は、サッカーにおいても自分たちの判断でリズムを変えたりするのを無意識に拒み、決められたことをずっとやり通そうという内在心理がある。結果、試合が一定のリズムで進む傾向が、他国、特に中南米のサッカーと比べ明らかに強い。
日本とブラジルのサッカー観の違い、プレーのリズムの違いに関しては、既に日本にいるブラジル人選手やブラジル人スタッフが、初めて日本で仕事をするゼ リカルド新監督と彼が連れてきたブラジル人スタッフに説明してくれることを期待したい。
サイドバックの攻撃参加
以下の動画はゼ リカルドが2019年にブラジル南部リオグランデ・ド・スール州の名門インテルナシオナルを指揮していたときの映像だ。
左右のサイドバックが前線高い位置に開いて攻撃に参加していることが紹介されている。
しなしながら、言わずもがなだが、サイドバックが高いということは、ボールを奪われた後、サイドバックが戻りきれていないスペースを使われることと同義語になる。
そのあたりのリスクマネージメントがどうなるかも気になるところだ。
2022年3月のバスコの試合映像
最後に、2022年にゼ リカルドが指揮したバスコ・ダ・ガマの試合のフル動画を4つ見つけたので紹介したい。
ただし、以下動画の全てが2022年3月の試合のため、その前がどうだったか、そしてその後どう変わっていったかなどを確認できていない。
しかも映像が見つかった4試合中、3試合がフラメンゴ戦。
フラメンゴは現在ブラジル全国1部リーグのセリエA所属で、南米クラブNo.1を決めるコパ・リベルタドーレスは2019年に優勝、2021年は準優勝。
一方のバスコは、ブラジルの名門であることに間違いないが、現在セリエB。ブラジル全国2部で戦い、予算や選手層など、フラメンゴに比べると全てにおいて劣る状況だ。
現在のフラメンゴは、チームとしてバスコに比べるとずっと良いサイクルにある。
フラメンゴはバスコよりも金銭的にも恵まれていて、良い選手も集まってきやすい。
例えば、フラメンゴにはダビド・ルイス、フェリペ・ルイスなど欧州のトップクラブでプレーしたディフェンスや、ガビゴルことガブリエル・バルボーザ、ウルグアイ代表の10番アラスカエータなど知名度がありサラリーも高額であろう選手が多い。そのため、どうしてもフラメンゴが優勢、バスコが劣勢になる。
以下のフラメンゴ戦だけで判断すると、「バスコ及びゼ リカルドは「押し込まれることが多い」とか「攻撃的でない」いう判断になってしまう。
しかし、明らかに予算規模やチームの状態が上のフラメンゴを相手にしているバスコの試合映像だけで「ゼ リカルドのサッカーはこうだ!」とか「清水エスパルスはこうなる!」と語る材料にするのは危険だろう。
資料としては偏りが出るため、紹介しないことも考えたが、念のため、参考資料として紹介したいと思う。
ちなみに、以下の動画の1本目(2022年3月7日のフラメンゴ戦)と3本目(3月17日のフラメンゴ戦)は防戦一方という時間帯が長く見ていて、なかなかしんどい。
一方、2本目のレゼンデ戦と4本目のフラメンゴ戦はバスコがボールを持つ時間帯もそれなりにある。
2022年3月7日 リオデジャネイロ州選手権第10節フラメンゴ2 -1 バスコ
2022年3月14日 リオデジャネイロ選手権第11節 バスコ3 – 0 レゼンデ
2022年3月17日 リオデジャネイロ州選手権 準決勝1stレグ バスコ0 -1フラメンゴ
2022年3月21日 リオデジャネイロ州選手権 準決勝2ndレグ バスコ0-1フラメンゴ
ゼ リカルドの人柄
過去のいくつかのインタビューや記者会見の動画を見る限り、ゼ リカルドは礼儀正しく誠実で落ち着いた性格という印象だ。
ザ ラテンという感じで陽気だったり、やたらと感情的になるというよりは、理知的な印象がある。日本には合っている性格なのではないかと個人的には思うし、そうであって欲しい。
初陣はブラジルデーが濃厚?
ゼ リカルドの初陣は、ブラジルデーとなる次節の6月18日のアビスパ福岡戦と目されている。
初陣がブラジル人監督によるブラジルデーというのも趣深いが、ゼ リカルドにとって異国のチームをシーズン途中から指揮するのは困難な任務だろう。
しかしながら、サポーターである自分は期待することしかできないので、なんとかゼ リカルドに強い清水エスパルスを作ってもらいたい。
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