ボカの本拠地ボンボネーラで行方不明になったメキシコ人 ボカvsサンロレンソ 2010年4月25日

アルゼンチン

DAZN

アルゼンチンのサッカー観戦は外国人にとって危険

よく言われることだが、アルゼンチンでのサッカー観戦は危険が伴う。

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もちろん、毎試合スタジアムに足を運ぶ熱心な現地ファンにとっては慣れたものだろうが、中流以上のアルゼンチン人家庭では「危ないからスタジアムにサッカーを見に行ってはいけない」と親から言われることも珍しくない。

アルゼンチン人にとっても安全でないとみなされるのだから、外国人にとってはなおのことアルゼンチンでのサッカー観戦は注意が必要だ。

特に、アルゼンチンの名門ボカ・ジュニオルスの本拠地ボンボネーラがあるボカ地区は治安が悪いと言われている。

もっともボカ地区の一部は、タンゴ発祥の地と言われ、色鮮やかな建物が並ぶ観光地となっているが、その観光エリアを外れた部分は要注意エリアとなり、外国人はウロウロしない方が良い。

ボカ地区の一コマ
ボカ地区の一部は観光地となっているが・・・

ボカの試合を観戦するためにツアーに参加

そういうわけで、外国人ひとりでボカのスタジアムへサッカー観戦を試みるのは賢明でない。

しかも、ボカのスタジアムは基本ソシオ会員枠で全席売り切れが基本だ。そのため、外国人がふらりとスタジアムに行ってチケットを購入することは基本的に不可能で、ダフ屋からチケットを買うにしても何かとリスクが高い。

そういうわけで、自分は宿泊するホテル経由で観戦ツアーを紹介してもらい、自分が出張でアルゼンチンに滞在する期間中に開催されるボカ・ジュニオルス vs サン・ロレンソの試合を観戦するツアーに申し込んだ。

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ちなみに、アルゼンチンでは、シーズン前に発表される試合スケジュールは暫定で、実際の試合日時は試合日の1週間前に確定することが多い。

したがって、たとえば、土曜日の試合を見るために、金曜にアルゼンチンに到着し、土曜日に試合を見て、日曜日には帰国の便に乗るという弾丸スケジュールを組んでしまうと、直前になって試合日が日曜日に変更となり、せっかくアルゼンチンまで行ったのに、試合が見れない、ということになる。そのリスクを避けるため、ある程度の余裕を持ったスケジュール作りが必要となる。

(尚、アルゼンチンに限らず、スペインや南米の他の国でも、他の大会との兼ね合いでスケジュールが変動することは珍しくないため、海外サッカー観戦を検討する際には、試合日が微妙に動く可能性を考慮した方が良い)。

2010年4月25日の試合当日、ツアーのバスが自分が宿泊するホテルに到着した。
バスに乗ってみると、自分が最初にバスに乗るツアー参加者だった。自分は背の高い男性アルゼンチン人ツアーガイドに挨拶をした。

ガイドから「君は日本人だろ?英語とスペイン語でバスの中で注意事項などの案内をするが大丈夫か?」と問われた。

自分は「英語でも、スペイン語でも大丈夫です」とアルゼンチンふうのスペイン語で回答すると、ガイドは、驚きの表情を浮かべた。

バスは進み、次はアジア系アメリカ人の女性グループが乗り込んできた。女性たちの話を聞いていると、アルゼンチンではサッカーが有名だし、せっかくだからツアーに参加してみた的な雰囲気で、アルゼンチンのサッカー観戦には危険が伴うことなど何の予備知識もないようだった。アルゼンチン人の中でアジア系の顔は目立つ。このお気楽な感じで大丈夫かと少し心配になった。

だが、その後、さらに「この人たちは大丈夫だろうか?」という人たちが乗り込んできた。

ヒルトン・ブエノス・アイレスから参加のメキシコ人グループ

その後何人かの参加者を載せた後、最後にバスはブエノス・アイレスのお洒落地区のひとつであるプエルト・マデーロに位置するホテル、ヒルトン・ブエノス・アイレスに停車した。
(ヒルトン・ブエノス・アイレスは2020年のオリンピック開催地が日本に決定された国際オリンピック委員会の会合が行われた舞台でもある)

そこで、7-8人くらいのメキシコ人の男性の集団が乗り込んできた。

彼らは全員20代後半から30代にみえ、陽気で感じが良く、そしてとにかくよく喋る。自分の隣に座ったそのグループの一人も、座席に座るや否や自分に挨拶をし、色々と世間話をしてくれた。

そうこうしているうちに、背の高いアルゼンチン人ツアーガイドが話し始めた。

「こんばんは」とアルゼンチン人ガイド。「今日は参加してくれてありがとう」

すると、メキシコ人たちがメキシコなまりのスペイン語でいちいち反応する。「かしこまった話はいらないぜメーン(正確にいうと、メーンでなく、「ウェイ」というメキシコ人がよく話の語尾につけるスペイン語表現だった)」

**メキシコ人がよく使うウェイに関する注釈**
ウェイはグエイやブエイなど汚い言葉遣いから派生していると言う説もあり、礼儀正しい言葉ではないとされる。しかし、アメリカ人がメーンというような感じで、メキシコ人、特に男性は友人同士などの会話で息を吐くようにウェイをやたらとつける。


苦笑いしながらアルゼンチン人ガイド。「それでは今日の注意点を話すので良く聞いて欲しい」

「俺らはメキシコでサッカー見たことあるし、大体わかってるぜメーン(ウェイ)」とメキシコ人。

「聞いてくれ」とアルゼンチン人。「アルゼンチンのサッカースタジアムはメキシコより危険だ。特に、ボンボネーラがあるボカ地区の治安は悪い」

「心配いらないぜメーン」とメキシコ人。

「特に大切なのは」と参加者の注意を求めるよう大きく声を張り上げながらアルゼンチン人ガイドが言った。「スタジアムに入るときと、出る時だ。絶対に俺からはぐれないでくれ。スタジアムに入る時は、身体検査などでがある上、人がごった返していてはぐれやすい。また、帰りも同様で、はぐれてしまい、一緒にバスに乗れないとなると、とても危険だ。基本的には俺を見て、常に一緒にいて欲しい。トイレに行くときとかも、一言俺に声をかけてくれ」

「わかったぜメーン」とメキシコ人はいうが、本当にわかっているかは微妙だ。

また、バスの通路を挟んで自分の隣に座っていたメキシコ人グループの別のひとりは、ガイドの話を聞かず、隣のメキシコ人と雑談をしていて、おもむろに「これ食うか?」とピーナッツ菓子の袋を自分に差し出してきた。

メキシコ人一同、真剣に聞いている感じではないが、陽気でどこか抜けている感じが憎めない。

ボンボネーラに到着。そして案の定・・・

日本と比べ明らかに真剣な警察による身体検査や荷物検査を経て、ごった返す人の波をかき分けメキシコ人軍団も含めた全員、指定された座席に着いた。
ひとまず、懸念された入場の部分はクリアされた。

そして、試合開始。

ボカには、フアン・ロマン・リケルメやマルティン・パレルモ。サンロレンソにはキリ・ゴンサレスなどアルゼンチン代表でもプレーした選手たちがおり、満員のサポーターが歌うチャントには圧倒された。

試合はボカが2-0で勝利した。

試合が終わり、背の高いアルゼンチン・ガイドが点呼を取ると人数がひとり足りない。

確認してみると、メキシコ人グループのひとりが行方不明になっていた。

「おい」アルゼンチン人ガイドがメキシコ人グループに言う。「(行方不明になった)彼はどこに行ったか知らないか?」

「わからないぜメーン」とメキシコ人のひとり。「トイレか売店にでも行ったと思うぜ」

「さんざんはぐれないように注意したのに」とアルゼンチン人ガイド。「彼に電話とかできないか?」

「試してみる」とメキシコ人のひとりが言う。そして、しばらく時間がたった後「つながらないぜメーン。どこに消えやがった、あのピンチェ・ペンデホ(この文脈では、バカ野郎の意。直訳するとクソッタレのケツの穴。メキシコ人がよく使う表現)」と言った。

2010年当時、海外ローミング代金は高価で、スタジアムにWiFiもなければスマホも今ほど普及されておらず、ローミング代を回避するため携帯の電源をオフにしている人も多く、行方不明のメキシコ人はローミングリスクを避けるため電源をオフにしていたのかもしれない。
その後、何度もメキシコ人たちが行方不明者に電話をするも、つながらなかった。

すると、メキシコ人のひとりが言った。「奴は置いて、ホテルに帰ろうぜ」

自分は言った。「いいんすか?だって、この辺りは危険な地域ですよ。しかも夜だし」

すると、アルゼンチン人ガイドは言った。「そうだな。置いていこう」

「ええ!?」と自分は驚いた。

アルゼンチン人ガイドは言った。「このまま待っていても、彼が帰ってくるかわからない。俺があれだけはぐれないようにと注意したのに、いなくなってしまった彼の責任だ。これ以上待てない」

自分はメキシコ人の集団に言った。「けど、本当にいいんすか?」

「いいぜメーン」メキシコ人は心の底から何の問題もないと思っている表情で言った。「あいつは、スペイン語を話せるわけだし、大人の男だ。タクシーでも見つけて自分で帰れるぜメーン」

自分の頭の中には暗い夜のボカ地区で安全にタクシーを拾えるのだろうかと心配になったが、だからといって自分に何かできるわけもなく、他のツアー参加者と一緒に帰りのバスに乗り込んだ。

バスの中でメキシコ人たちは行方不明になった自らの友人のことを心配するふうでもなく、明日の観光スケジュールの話題で盛り上がっていた。
そして、ホテルがヒルトン・ブエノス・アイレスに到着すると、メキシコ人たちは、感じよく、自分に握手を求め別れの挨拶をしてくれた。

まとめ

その後、行方不明になったメキシコ人が無事に帰ったかどうかは、知る由もない。

だが、この経験からひとつ学んだことがある。

人の話。特に事情に精通している人の話はバカにせず、しっかりと聞き、指示に従った方が安全だと言うことだ。

当たり前と言えば当たり前だが、行方不明になったメキシコ人を教訓に、当たり前のことを大切にしたいと思った。

(ボカvsサンロレンソ フル動画)

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