ヴェルディ・セレッソ時代のロティーナ スペインメディアのインタビュー

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ヴェルディ・セレッソ時代のロティーナインタビュー

前の記事で、ミゲル・アンヘル・ロティーナ清水エスパルス前監督のインタビューを掲載したところ、東京ヴェルディ・セレッソ大阪のサポーターの人たちからリアクションを頂きました。

その数が自分の想像以上だったのでとても驚いたとともに、両チームファンにとって、ロティーナ氏が両チームを指揮していた時代のスペインメディアとのインタビュー内容も興味がある話題なのかもしれないと思いました。

そういうこともあり、ロティーナ氏がヴェルディ・セレッソ時代にスペインメディアから受けたインタビューの内容を一部紹介します。

インタビュー動画を通しで確認したうえで、スペインのサッカーに関し語っている部分などは割愛をし、日本全般及び日本で以前指揮していたクラブに関して話している部分を抜粋し紹介します。

尚、東京ヴェルディは堀考史監督、セレッソ大阪は小菊昭雄監督が、2021年の残り及び2022年シーズンの監督となることが発表されています。

以前の監督の話を引っ張り出すのは現監督に対し敬意を損なう行為かもという個人的な心配もあります。

そのため、自分としては、両チームの現監督は堀氏、小菊氏であることを尊重したいことをまず明言しつつ、ちょっとした小話として前監督のロティーナ氏に関し記載したいと思います。

また、同時に清水エスパルスサポーターの自分は、ロティーナ監督との契約解除後の、最後の4試合で勝ち点10を奪取し、J1残留を確定させてくれた平岡宏章監督に最大級の敬意と愛情と感謝を示します。

もっとも、ヴェルディ・セレッソのファンはこれら動画について既に知っているのかもしれませんが、自分的に、まあまあ長時間のインタビューをせっかく聞いたし、また、日本とスペインの比較文化論的なところもあり、興味深かったので、記事にしてみました。

尚、日本語訳に関し、大きな誤訳や誤解が生じないよう注意を払っていますが、全ての発言を都度細かく翻訳するのでなく、一部は内容の大枠を伝えるために意訳を交えています。

MARCA YouTube 2018年11月11日(東京ヴェルディ時代)

“Tengo prohibido a mi representante escuchar ofertas de España”
「代理人にはスペインからのオファーの検討を禁じている」

東京での生活は良いよ。
治安もいいし、人々も敬意を持って接してくれる。
店に入っても、喫茶店やレストランに行ってもとても快適だ。

スペインでの指揮を終えた後カタールに行った。
国としてカタールはいいところだが、サッカースタジアムの雰囲気は冷めていて、スタジアムで感じられるサッカーに対する情熱が恋しくなった。

そして日本に来た。
ここには、自分が欲しいと思っていた全てがあった。

カタール後の自分には、2つの選択肢があった。
スペインに戻ってプレッシャーの中で仕事をするか、その他の選択肢をとるか。
結果的に今、この状況に満足している。
自分を再生できている気分だ。
この歳になって、そう感じることができるなんて貴重なことだよ。

自分にとってベストな時期は、指揮していたチームを一部昇格させたこと。

セルタでリーグ4位になりチャンピオンズリーグに出たこと。エスパニョールでリーグ5位になったことなどかな。
それらは簡単なことじゃない。

なぜそれが自分にとってベストな時期か。それは、自分が指揮したクラブ関係者が満足してくれたし、みんなが幸せになるために仕事をしているという実感があったからさ。

自分にとって最悪な時期は・・・たくさんある。
自分は、良い時期のことばかりを話すのは好きじゃないんだ。

そういえば、ここで驚いたことがある。
ヴェルディの社長との顔合わせの場で、ヴェルディの社長が自分にこう言ったんだ。「我々(ヴェルディは)成功だけでなく、失敗も知っている監督を連れてきたかった。それは我々にとってとても重要なことだったんだ」

日本人にとって、失敗だけを知っている人間でも、成功だけを知っている人間でもダメだったんだ。成熟した人間とは、成功も失敗も両方とも知っている人のことだった。そういう考え方をしてくれるのは、自分にとってもポジティブだった。

もちろん、失敗はしたくない。
けど、失敗は私の人生の一部だ。

Radio Marca Albacete 2019年5月24日 セレッソ大阪時代

日本はどうですか?もう3年目ですよね?

最初の2年は東京ヴェルディで、今年からセレッソ大阪。
新しいクラブ、新しい街。大きな変化だ。
けど、不満なことはない。スペインに行くにはちょっと遠いけどね。

日本での生活はスペインとは大きく違いますよね?

そうだね。全く違う。
日本は生活するにはとても良い場所さ。
相手に敬意を払う社会で、治安もいい。

サッカーを取り巻く環境でもお互いへの経緯が感じられる。
ここでは、自分が応援するチームが間違いを犯した時も含めてチームを盛り上げようと拍手を続けサポートを続けるし、相手チームや審判を激しく侮辱することは無い。
スペインとは違うんだ。

それは驚きでもあったが、同時に気を付けないといけない点でもあった。

我々スペイン人は、サッカーの試合で、侮辱的表現を含めた強い言葉遣いやジェスチャーを使うことに慣れている。

けれど、ここ日本で、選手や、審判などに、スペインでやっているような言葉遣いやジェスチャーをすると、スペイン人が思う以上に深刻にとらえられることがある。

そのため、スペインで慣れていたのとは別のやり方で、色々と表現する必要がある。
それはとても大きな変化だよ。

サッカー選手たちはメディアで取り上げられることはあるんですか?

スペインに比べると少ない。
この国の文化・教育システムなどによる違いもあるが、サッカー選手が取り上げられないことはサッカー界に対して問題だ。

日本はとてもスポーツが盛んで、野球など多くの種類のスポーツが取り上げられる。そのため、メディアの扱いなどが他のスポーツに分散する。

サッカーに関しても、ここでは、プロのクラブチームだけでなく、大学サッカーなど多くのカテゴリーがある。
大学サッカーといえば、ここでは大学サッカーからプロの道に進むという選手が多いんだ。

あと、厳しい競争を勝ち抜く力、闘争心が物足りないと思うことがある。
もっとも、最近の日本の選手たちは選手たちがドイツを中心に、欧州リーグに出て足りない面を向上させようと言う動きもある。
そして、欧州でプレーする選手の多くが日本代表に名を連ねるようになってきている。

日本ではスペイン出身の監督や選手が増えてますよね

最も大きなインパクトはアンドレス・イニエスタだ。
フェルナンド・トーレス、ダビド・ビジャもいるが、イニエスタの影響がもっとも大きかった。

ここではサッカー放送もあるが、日本のクラブはスペインのチームが巨額の放映権を得ているような収益を得られていない。

だが、イニエスタが来たことでより多くの人がサッカーを観たいと思うようになった。イニエスタを観たいとスタジアムが満員になり、リーグ戦を見るための視聴者も増えた。

Jリーグは有名な選手の獲得を推進したい。
日本に来る外国人は、中国リーグのように巨額オファーで有名選手が来るという形ではない。ここに来る外国人は、質は高いが、国際的には知名度が低いという選手が多い。

そういうなか、知名度がある外国人選手が来ることはリーグに変化を与えらえる。

また、別の違いというと、日本ではクラブのファンである一方、選手個人のファンという人が少なくない。

ある選手が移籍したら、移籍先でもその選手の活躍を応援する。
スペインだったら、応援していた選手が、同じリーグのライバルチームに移籍したら、その選手に対し憎悪を持つことが多い。

あなたは日本で3年目ですが、サッカー面、そしてサッカー面以外で日本に慣れましたか?

日本に来たばかりのころは苦労した。
そういえばヴェルディ時代にこんなことがあった。

私が日本で迎えるはじめてのシーズン開幕前、私が練習を開始して5~6日頃、チームスタッフがシーズンの予定を持ってきた。見ると、リーグ戦、カップ戦の全ての試合の日付、キックオフ時間、旅程が既に決められていた。シーズン全ての予定が決まっていたんだ!
気温なので時刻など若干微調整が入るかもしれなかったが、基本的にはほぼすべてのスケジュールがシーズン開幕前に確定していた。

注:
スペインではシーズン開幕前に発表されるスケジュールは暫定で、試合の日付・キックオフの時刻は、欧州・国内カップ戦の日程なども考慮され、試合の1週間前などに確定する。

その後、私が練習を始めて10日目くらいに、チームのマネージャーがやってきて、私にこう言ったんだ。「ミステル、今後2カ月の練習予定を決めてください」

私は冗談だと思った。

けれど、マネージャーは本気だった。

私は言った。「2カ月の予定だって?自分はスペイン人だぞ。明日することを今日決めることだってある。そのときそのときの状況に合わせ、次の予定を決める」と言ったんだ。

そしたらマネージャーが言った。「監督、それは困ります。ここでは事前に先の予定を組んで、みんなその予定に合わせ自らのスケジュールを決め、そのスケジュール通りに行動するんです」

そういわれたから、とりあえず予定を提出した。けど、状況が変化するなか、先の予定を組むことは簡単じゃない。

また、あるとき私が「明日は休みにする」と言った。

すると「なぜ?」という質問が来た。

私は言った。「なぜって・・・今のチームには休息が必要だと感じるから」

ここでは、選手はチームの予定に合わせ自分のスケジュールを組み、チームスタッフも予定にあわせて行動を決める。

スペインで指揮を執ることが恋しくなりませんか?

いや。恋しく思わないね。
スペイン自体に対しては寂しく思うことがある。
けれどそれは、地元で食事をしたり、家族や友達と話をしたりすることに対する寂しさであって監督として働くことは寂しくないかな。

スペインには戻りますか?

わからない。状況次第かな。

2018年12月にヴェルディとの契約を終えたあと、セレッソとの契約に合意しサイン済だった。ただ、そのときはセレッソ監督就任に関して、正式発表はされていなかった。

スペインに帰っていた自分のもとに、スペインのあるチーム関係者から「ロティ、元気かい?話でもしようよ」と電話が入り、その人物と会うことになった。彼はそのチームの監督のオファーを私に出そうとしていたんだ。

そこで自分は、既にセレッソ大阪との契約にはサイン済で、その契約を覆すつもりはないことを説明した。

ただそこで、セレッソとの契約がなかったらどうだったか?スペインのチームと契約をしたか。したかもしれないし、しかなったかもしれない。わからない。

ただ、(スペインリーグのカレンダー的に12月の契約の場合)シーズン半分を残した時点でチームを指揮するのは好きではない。セレッソとの契約がなかったらどうしていたのか、ほんとうにわからない。

スペインで監督をすることは大変ですか?

そうだね大変だ。
もちろん素晴らしい選手たちを率いて、スペイン1部、もしくは2部の監督を務めるのは素晴らしいことだ。

けれど、プレッシャーも激しく、実際に、燃え尽きてしまう人もいる。

セレッソ大阪はどうですか?

まずここ日本では、中国みたいに大金でクラブを運営するというのではない。

日本ではメインスポンサー企業が重要な立場にあるという形式だが、それでもクラブ運営は問題なくなされている。

セレッソの場合ヤンマーがメインスポンサー企業だが、私は監督として基本自由にやらせてもらっている。クラブの社長とは年に数回面談するが、彼らがサッカー面に関し口出しすることはあまりなく、私は自由に仕事をさせてもらっている。

その点が、スペインと異なる。
スペインの場合、会長がいて役員がいて、影響力のある代理人やらがあって、クラブ関係者がいて、サッカーの現場がある。日本とはサッカークラブの組織体系が異なる。

スペインの場合、会長・役員がサッカーの現場に現れ、ロッカールームで「助言」を与えることもありますからね。

ここでは社長以下、私に権限を与えてくれて幸にも快適に仕事ができている。

( その後スペインサッカーに関する話が続く )

監督業を続けたいですか?

わからない。
55~56歳のときに一度監督業から退いた。
何が起こったか?

仕事をしなくて良い状態が一か月続いた、素晴らしい!
二カ月目も、まだ素晴らしい。
三か月目には、つまらなくなった。

そこで気づいたんだ。

もしも何かに対し情熱があるなら、それをし続けたほうが良いと。
今のところ監督業に対し、情熱がある。監督としてもっと良くなりたいという気持ちがある。

健康も大事だ。

そして、良いオファーがある。

だから情熱、健康、良いオファーが揃えば、監督業を続けたい。
もっと良い監督になりたいからインターネットも使い研究をしている。
何十年も働いたんだから引退したいという人の気持ちもわかるけれど、自分はそういうタイプではない。ただ、いつまで続けるかはわからない。

サッカー監督に限らない、どんな仕事でも自分をアップデートし続けることが大切だと思う。

言葉はどうですか?

私にはスペイン語の通訳がいる。彼はスペインでサッカーについて学んでいて、私が話すことをサッカーの言語を理解し、日本人に説明できる。

一方、クロアチア人(マテイ・ヨニッチ)には英語の通訳がついていた。
韓国人(キム・ジンヒョン、ヤン・ドンヒョン)には、韓国語の通訳。
ブラジル人(ソウザ、ブルーノ・メンデス)には、ポルトガル語の通訳がいる。
それら通訳の中には、言葉はできるがサッカーの知識が無い人間も含まれていた。

だから、私はクラブに提案したんだ。
単純に言葉を通訳できる人間を探すのでなく、監督・コーチ資格を持つなどサッカー言語を理解できる通訳を手配するべきだと。

まず通訳がサッカーのことを知っていれば、サッカーチームを動かすための助けにもなる。
また、サッカーの言葉を知らないと、正しく意思疎通ができない。

それに対しクラブは「それはあなたの言う通りだ」と言い、そこの点は改善に向かっている。

Jリーグのトップのチームはスペインのリーガで何位になると思いますか?

どうだろう・・・。
厳しい戦いを強いられると思う。

日本人のサッカーの質が悪いわけじゃない。戦術的にも優れている。
監督も良い。選手たちはサッカーで何をするべきかもわかっている。
サッカーを学ぼうという姿勢もある。

けれど、スペインのリーグで戦うとなると・・・日本ではスペインではあまり見ないようなミスに起因するゴールが多い。

繰り返しになるが、日本のサッカーの質は悪くない。
ただ・・・。

たとえば、スペインの中位のチーム、たとえば、エイバルがJリーグに来たとしたら上位、優勝を狙えるというと言う印象がある。

けれど、たとえば鹿島アントラーズは、日本開催のクラブワールドカップでレアル・マドリードを苦めた。その翌年のクラブワールドカップではレアルがもっと容易に鹿島に勝利をしたが、鹿島も日本ではとても良いチームだ。

また、ヨーロッパで何人もの日本人がプレーしているし、戦術も含めサッカー面は進化している。

フェルナンド・トーレスをサガン鳥栖が獲得したことは驚きでしたか?

他チームの詳しいことはわからない。ただ、ここではチームのメインスポンサーが大きな力を持つ。
けれど、鳥栖がどうやってトーレスを獲得する資金を得たのかはわからない。

前にトーレスと会った時は少し話をしたよ。とてもいい青年だ。彼は去年ここで重要なゴールも決めていたしね。

あなたはイニエスタのご近所さんなんですよね?
そうだね。ダビド・ビジャも近所だ。
スーパーマーケットでもビジャと何度か会っているよ。

<インタビュー終了>

ちょっとした感想

ロティーナの発言で個人的に印象深いのが、彼にとって日本での最初のシーズンの開幕前に、日本ではカップ戦も含め全ての試合の予定が確定していたり、チームのマネージャーが2ヶ月先の予定を決めて欲しいと言ってきたり、突然明日の練習を休みにすると言うとチーム関係者が戸惑ったというエピソードです。

上述エピソードはヴェルディでのエピソードですが、これは日本の他のチーム、ひいては企業や日本社会全体が持つ傾向だと思います。

日本人である自分も同じ気質を抱えているという自覚があるのですが、程度の差はあれ日本人は予定を立てるのが好きです。

そして、物事が予定通りに進まないと、血圧が上がるというか、一気にイライラする傾向があると思います。

おそらくサッカーの現場で「試合では想定した通りにゲームは進まない。ピッチ内で自分で考えて臨機応変に対応しろ」と選手に声をかけるコーチも、実際のところは「今日はキックオフ5分前に選手たちに『臨機応変に対応しろ』と声をかけると予定を立てていたり、描いたゲームプラン通りに進まないと一気に選択肢を失い「試合後、こういう状況では、どういう解決策を持つべきか考える」という予定を頭の中で組むのでは無いと個人的に思います。

ただ、そういうコーチは力が無い、と言うのも酷で、日本社会全体が「予定を立て、その通りに進める」ことを重視ししているなか、サッカーの現場だけ柔軟に対応することを求める、と言うのは無理があると思います。

その点、いつか機会があったら書きたいと思うのですが、たとえばアルゼンチンなんかは予定通りの物事が進むことはまずなく、ある時を境に突然自国通貨の価値が半分になったりします。

実際、自分がアルゼンチンに入ると「半年前にきた時よりも、同じものの値段がめちゃくちゃ変わってる」ということがあります。

そんな想定外のことがやたと起こる中で生き抜く術を自力で探さないといけない社会から生まれてくる選手と、全てのものが時間通りに計画的に進む社会、電車が1分遅れれば謝罪のアナウンスが流れる社会から生まれる選手とでは、ピッチ内での考え方も変わってくるのは仕方ないと自然だと思います。

もうひとつインタビューを見つけたけれど

上記2つのインタビュー動画以外にも、ロティーナ氏がセレッソの2年目の終盤に収録されたインタビュー動画がもう一本見つけ、短いながらも興味深い内容でした。

もうひとつのインタビューも、機会があれば別の機会に紹介したいと思います。

 

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