翌日、話し相手を求め日本人経営の宿泊施設に移動
この記事は下の2つのエピソードの続き
バルセロナでのホテルは到着日の一泊だけしか抑えていなかった。
前日のインターネットカフェでの警察の取調べで疲れが増幅し、ホテル移動するのが面倒になったから、到着初日に宿泊したPasseig de Gracia駅近くのホテルに延泊しようと思ったが、その日は空きがないと言われ、別のホテルを探さないといけなくなった。
そこで『地球の歩き方 バルセロナ編』を調べたら、日本人経営のゲストハウスの情報を見つけた。
前日の出来事のせいで、自分が不自由なく話せる日本語で宿泊先に関し調整をしたいし、日本語で誰かと話したいという気持ちが湧き上がっていた。
そこで、日本人経営のゲストハウスに連絡を取ると、空きがあるとの回答だったので、早速その宿に移動した。
スペイン留学をしている日本から来た女子大生たちと雑談
宿泊者のほとんどが日本人だった。
同じ言葉や文化を持った人が周りにいるという状況に自分は安堵した。
共有スペースのソファーでくつろいでいると、若い女性数人がやって来た。
自分は彼女たちに挨拶をし、話しかけたら、彼女たちは感じ良く自分に対応してくれた。
話を聞くと、その女性たちは日本からスペイン留学に来ている大学生とのことだった。
彼女たちは日本ではそれぞれ別の大学でスペイン語を勉強していたが、留学先のサラマンカのとある大学で知り合って友達になり、休みを利用してバルセロナに旅行に来ていた。
自分は、スペイン留学に来ていた女子大生たちに、自分も大学生でスペインに来る前、短期間アメリカに滞在し、英語とスペイン語を勉強していたこと、昨日バルセロナに着いたばかりであること、そして、インターネット・カフェでロマ人ふうの女性に言いがかりをつけられて警察を呼ばれ気持ちが落ち込んでいることを話した。
「それは大変でしたね」と同情するように女子大生の一人が自分に言った。
「ありがとうございます」と自分は言った。「ずっと憧れていたバルセロナに到着したと思ったら嫌な目に遭い、バルセロナに失望させられたような気分になっちゃいましたよ」
そんなやりとりをしたあと、彼女たちのその日のバルセロナ観光のプランを聞いた。
そして、自分はその日の予定を決めていないけれど、グエル公園あたりに行くことを漠然と考えていることを伝えた。
その流れで、「もしも観光を終えて、夜タイミングが合えば、ゲストハウス近くのバルとかでお酒でも飲みながら雑談しましょう」的なやりとりをし、自分と彼女たちはそれぞれ別の場所に向かってゲストハウスをを出た。
「お酒でも飲みましょう」と言ったものの、それはあくまで社交辞令で、女子大生たちもマジでは考えてないだろうと自分は思った。
結局その日、自分は有名だからという理由でグエル公演などを周った。
あちこち歩き回り、夜になると自分は「タイミングが合えばバルでお酒でも」という女子大生たちとのやりとりのことなどすっかり忘れていた。
そして、夜になり見つけた雰囲気の良さげなバルで、バルセロナのビールEstrella Dammを飲みながら、タパスをつまんだ。
ひとりで物思いにふけりながらタパスをつまみ、ときどきバルの店員と雑談をしながらビールを飲んだりしたりするうちに気分が良くなり、インターネットカフェでの嫌な気分が和らいでいく感じがした。
女子大生の一人がパスポートや現金が入ったバッグを強奪されていた
翌朝、ゲストハウスの共有スペースでくつろいでいると、前日に話をした日本人女子大生の一人が自分に話しかけてきた。「昨日はすいませんでした」
「えっ?」自分はなぜ彼女が謝ってきたのかわからなかった。
そんな自分の当惑など知らない女性は続けた。「昨日、タイミングが合えば、夜バルに行こうと話をしたのに、それができず、すいませんでした」
そういえば、そんなことを言っていたな。すっかり忘れていた。ということは表情に出さずに、明るい口調で自分は言った。「いえいえ、そんな気にしないでくださいよ。だって、あくまで『タイミングが合ったら』って話だったじゃないですか。自分も別で夕食を済ませたし、問題ないですよ」
「実は」と彼女。「昨日、強盗にあったんです」
「ええ?」自分は驚いた。「何があったんですか?」
その女性は答えた。「昨日、友達たちと、モンジュイックに行ったんです。そこで、みんなで話しながら歩いていたら、突然男がナイフを突き出して、友達の一人に向かって『そのカバンをよこせ』と迫って・・・」
「それで、取られちゃったってことですか・・・」と自分。「強盗に遭遇したときは、下手に抵抗するのは危ない。素直にモノを差し出した方がいい、と言われますが・・・。ショックですね」
「はい。友達は、ナイフを突きつけられたことで、怯えてショックを受けてしまいました。しかも、取られたカバンの中には、友達のパスポートも入っていて・・・」
「それは・・・本当に大変でしたね」インターネットカフェで自分は詐欺師にハメられそうになり、その翌日に出会った日本人女性が強盗に逢うなんて。バルセロナは怖いところだ、と思った。「それで、皆さん、怪我とかはなかったんですか?」
「はい。強盗は友達のバッグを奪うとそこから立ち去りました。そして、近くを通ったアルゼンチン人の男の人が、私たちに声をかけてくれて、このゲストハウスに電話してくれたりと助けてくれたんです」
なんてことだ。自分は、世界で最も治安が悪い街ランキングの上位常連のメキシコのフアレス市を何度か訪問したにも関わらず、幸い危ない目に遭ったことはないのに、バルセロナでは到着後、二日連続で怖いエピソードに遭遇するなんて。
すると、ゲストハウスのオーナーの日本人女性がそこを通った。
昨日の強盗事件のことを自分が知ったと気づいたオーナーの女性は、ゲストハウスから日本大使館に本件に関してコンタクトを取ったとを自分に説明してくれた。
そして、オーナーの女性は続けた。「一人で観光する場合、何か起こっちゃいけないと思い警戒するんだけど、友達といると安心して警戒心が薄れることが結構あるの。強盗やスリがそのスキを狙ってくるパターンって意外とあるんだよね」
「なるほど」と自分は思った。
そして、次の日、カンプノウにFCバルセロナ対バレンシアの試合を見に行く予定だった自分は「今まで2日連続で怖い話を聞いている。明日の試合、キックオフは夜だけど、大丈夫だろうか?」と不安になった。
<続く (下の記事へ)>
コメント