2014年6月14日 日本vsコートジボワール
ブラジル時間6月14日、人生ではじめてワールドカップの試合を生で体感する日がやってきた。
その日は朝からワクワクし、試合の時刻が来るのが待ち遠しかった。
2014年ブラジルワールドカップ、日本の初戦の相手はコートジボワールだった。
ディディエ・ドログバ、ヤヤ・トゥーレ、コロ・トゥーレ、サルモン・カルーなど世界的にも有名な選手を揃える強力なチームだった。
選手の知名度や能力で言ったら、コートジボワールの方が日本より高いというのが客観的な見方だったろうが、アフリカの代表チームはサッカー協会が杜撰だったり、選手同士のエゴがぶつかり合ったりで、チームとしてうまくまとまらないことも少なくないため、日本にも勝機があるとあるという見方も少なくなかった。
もちろん、コートジボワール相手に負ける可能性があることも頭でわかっていた。
けれど、ワールドカップという独自の体験に身を置いている高揚感からか、試合へのワクワクが止まらなかった。
試合会場のアレーナ・ペルナンブーコ(Arena de Pernanbuco)へ
試合会場は、赤道に近い町、ブラジルの東北ペルナンブーコ州レシフェの郊外にある、アレーナ・ペルナンブーコだった。
レシフェの位置
アレーナ・ペルナンブーコ外観
レシフェのショッピングセンター・ショッピング・レシフェ(Shopping Recife)からスタジアム行きのシャトルバスが出ているとの情報を得ていた。
現地の雰囲気を楽しめるようキックオフ2時間前にはスタジアムに到着したかった自分は、早めにシャトルバスのチケットを購入し、スタジアムへと向かった。
バスを降りたあと、まあまあ歩いてスタジアム到着
シャトルバスはスタジアムのすぐ横に止まると思った。
けれど、実際のところ、バスはスタジアムから離れた場所に停車し、けっこうな距離と時間を歩くことになった。
けれど、ワールドカップを観れるという高揚感があったから、それほど苦ではなかった。
雨は降っていないし、ちょっとした散歩としてちょうどいいとすら感じた。
スタジアムの近くには、多くの人がいた。
日本人、ブラジル人、それ以外の国の人・・・。
多くの人でごった返していた。
(日本のテレビ局から派遣された関ジャニの村上氏の姿も見えた)
みな、ワールドカップを生で観戦できることを楽しみにしている表情だった。
多くのブラジル人が日本のハチマキを頭に巻いていた。
これは、サッカー観戦の魅力に取り憑かれ、勤務していた会社を退職し、サッカー観戦がしやすいようにとフリーのコンサルになったという村上アシシ氏などが音頭をとって、ブラジルの人たちに日本のハチマキを配り、日本を応援してもらおうというキャンペーンの成果だったと思う。
(自分も一夜限りでも日本サポーターをブラジルで増やすべく、ハチマキを配りたかったが、近所の100円ショップなど数店回るも、売り切れでハチマキを確保できなかった)
あくまで主観だが、日本対コートジボワール戦を見にきていたブラジル人のうち、日本を応援する人の比率は、コートジボワールより多かったと感じた。
スタジアム入場口で、手荷物検査があった。
すると、折り畳み傘は持ち込み禁止だと指摘された。
日本ではオッケーでも、ブラジルでは危険とみなされ没収の可能性はあるかもしれないなと薄々感じつつ持参したが、持ち込み不可だと指摘された自分は、大会スタッフに傘を差し出した。
そして、スタジアムに入ると、ボア・ビアージェンのレストランで、連日顔を合わせてはビールを飲みながらサッカー談義に花を咲かせたイギリス人と遭遇した。
「ここでも会ったね」とお互い顔を見合わせ、「ワールドカップを楽しもう」と言い合った。
ワールドカップ独自の高揚感 本田さんのゴールで叫んだけれど・・・
ワールドカップ・アンセムが場内に流れ、両チーム選手がスタジアムに入ってきた。
テレビを通してでなく、ワールドカップ会場で聴くワールドカップ・アンセムで、今までのサッカー観戦で感じたことのないレベルの高揚感が訪れた。
そして、胸に手を当て、日本国家をワールドカップ会場で斉唱するのは、とても誇らしかった。
試合はブラジル時間では6月14日、自分の誕生日だった。
一人で迎える誕生日だったが、日本代表が勝利で自分の誕生日を祝ってくれることを信じていた。
前半16分、本田圭佑が先制ゴールをぶちこむと、自分は雄叫びをあげた。
自分の近くで観戦していた日本人も叫んでいた。
そんな日本人たちが熱狂している様子を、ブラジル人たちがスマホに収めていた。
さすが本田さん。
自分たちのサッカーとか優勝を目指すとかデカイことを言うだけでなく、実際に決める男だ!と自分は感心した、ハーフタイムに入るまでは。
ハーフタイムに日本にいる友人へ国際電話
ハーフタイム、売店でビールを購入し(ワールドカップデザインのカップに注がれていた)、ブラジルから日本へ国際電話をかけた。
2014年当時のアレーナ・ペルナンブーコ・スタジアムには無料WiFiが無かった(と思う)。
そのためLINEで無料通話を行うと言う選択肢がなかった。
だが興奮が抑えられず、誰かと話をしたいと思った自分は、国際電話の通話料が高いことを認識しつつも気持ちが抑えられず、日本で、サッカー仲間数人で集まってテレビ観戦している友人たちに国際電話をした。
友人たちも、日本が前半1-0のリードで終え後半に向かっていることを喜んでいた。
だが、そんななか友人の一人が言った。
「勝っているのはいいけど、日本の出来はあまりよくないよね。特に、香川がの出来が良くないのが気になる。このまま終わると良いけれど・・・」
後半、コートジボワールに逆転される
その友人の言う通りだった。
日本は勝利を確信させるような試合内容を見せてはいなかった。
そして、後半に入り、64分、66分と立て続けに失点した。
どちらのゴールも、コートジボワールの右サイドバック、オーリエに簡単にクロスを上げさせ、中で綺麗に合わせられるという同じ過ちを短時間で繰り返した形での2失点だった。
コートジボワールの右サイドバックがフリーになり、ゴール前に鋭いクロスを上げる。そして、コートジボワールの選手が点で合わせゴール。
最初の失点シーンの録画映像を、2分後にもう一度見せられたような失点。
あっという間に逆転され、自分は唖然とした。
日本は何をやってるんだ。今日は俺の誕生日なんだ。勝ってくれよ、と心の中で何度も叫んだ。
だが、本田さんの動きはどこか鈍く、2010年南アフリカ大会でメンバーを外された悔しさと背番号10番を引っさげて参戦した香川真司も相手の脅威にならずボールを失うことも多く、逆転できるという期待が持てなかった。
それでも自分は日本の逆転、せめて同点に追いつくことを心底願ったが、それも虚しく日本代表は1-2で逆転負けを喰らった。
試合途中から降り出した雨が、自分の心をさらに悲しくした。
列に並ばず横を歩く日本人に怒声を挙げる、列を守るブラジル人
スタジアムの観客席は屋根があったから、試合途中からふり始めた雨の影響を受けなかった。
しかし、試合を終え、スタジアムの外に出ると雨はまあまあ強く、雨具がないとつらい状態だった。
持参した折り畳み傘は、試合前の持ち物検査で没収されていた。
そんな自分は、雨に濡れながらシャトルバス乗り場まで歩かざるを得なくなった。
何万人という人たちが一度にシャトルバス乗り場へ向かい歩いて行った。
歩道のスペースは限られているため、歩くスピードも抑え目にならざるを得なかった。
そんな歩道を、スタジアムに行った人たちは、列の秩序を尊重し、黙々と雨にぬれながら歩いていた。ブラジル人ですら限られた歩道スペースを尊重し、歩道横の僅かなスペースや人と人の間をすりぬけて進むということをしていなかった。
そんな中、若い日本人数人が、歩道横のスペースを縫うように早足で歩き抜けていった。
すると、ブラジル人たちが一斉に日本人に向け「危ないだろ。列を守れよ。この馬鹿野郎」的なことをポルトガル語で叫んだ。
日本人が秩序を守り、ブラジル人が秩序を破る、というのは何となくしっくりくる。けれど、目の前の光景はその逆で、秩序を守らないことで日本人がブラジル人に怒られるという光景で、なんか変な感じだった。
だが、ポルトガル語が分からない日本人の若者たちはその後も速足で列の横などをすり抜け、ブラジル人のひんしゅくを買いながらバスに向かっていた。
そんな怒っているブラジル人たちを横目に、列の流れにあわせて歩いていた日本人の自分は、雨に濡れながらまあまあの距離を歩き、シャトルバス乗り場まで歩いて行った。
シャトルバスがショッピング・レシフェに着くと夜もすっかり遅くなっていた。
自分は、とっくに営業を終えているショッピングモールのタクシー乗り場で、ワールドカップ観戦者を乗せるために待機していたタクシーに乗り、宿泊先まで帰った。
日本代表が祝えなかった自分の誕生日を、ブラジル人店員が祝ってくれた
試合翌日、ショッピング・レシフェに行った。
ブラジルワールドカップに来た記念に、ブラジル代表のユニフォームを買おうと思ったからだ。
ショッピングモール内のスポーツ用品店に入った。
店員にブラジル代表のユニフォームを買いたい旨を伝えた。
すると、選手着用モデルと、レプリカモデルの2種類があると言われた。
レプリカは1万円弱の一方、選手着用モデルは高かった(番号・ネームプリント無しで2万円弱、1万8千円前後だったと記憶している)。
はるばるブラジルまで来たんだし、せっかくだからブラジルでブラジル代表の選手着用モデルを買おうと考え、自分は選手着用モデルを買った。
その後、店内製品を見ているうちに、父親用にも何か買おうと考え、ブラジル代表のレプリカユニフォームを追加で購入した。
そして、自分はアフリカ系のブラジル人店員にポルトガル語で話をした。
「昨日、日本代表vsコートジボワール代表を見に行ったんですよ。自分は多くの時間とお金を犠牲にして、日本からはるばるブラジルのレシフェまでやってきました。しかも、昨日は自分の誕生日。だから、日本代表は、俺のためにも勝って欲しかったんすよ。けど、なんてこった。日本は惨めに負けちゃいました。俺のためにも、勝って欲しかった!」
すると、ブラジル人の店員は「オーーーーホッホッホッホ」と大声をあげ、コメディ映画で見るようなあからさまな驚きの表情を見せたあと、ニヤニヤしながら自分の方を叩いた。
そして、店内にいた別の店員複数人に、面白い話を聞いたとばかりに声をかけた。「おい。聞けよ。この日本人は日本からはるばるブラジルまで来て、昨日、スタジアムに行ったんだ。そして、昨日は彼の誕生日だったってのに、日本代表は負けちゃったんだってさ。ハッハッハ」
「おおおーーーマジか?それは、なんてこった」と声をかけた別の店員たちがニヤニヤしながら自分のもとに集まってきた。「君ははるばる日本から、日本代表を応援するためにブラジルまでやってきた。そして、昨日は君の誕生日だった。にもかかわらず、日本は負けちゃったのかい?」
「そうなんすよ」と自分は答えた。「日本代表は、自分の誕生日を祝うためにも勝って欲しかったですね」
するとスポーツショップの店員たちが、ゲラゲラと笑いながら自分に向かい「誕生日おめでとう」的な歌を歌った。
歌を歌うブラジル人たちを見ながら「ブラジルっていいな」と思った。
馬鹿にされている、と受け取る人もいるかもしれない。
けれど自分は、ニヤニヤしながら自分に誕生日を祝うメッセージを送ってくれているブラジル人の中にユーモアと、ちょっとした皮肉と愛情を感じ、楽しい気分になってきた。
日本代表に失望させられ、雨のなかシャトルバス乗り場まで歩いたのは辛い経験だった。
けれど、ブラジル人店員がニヤニヤしながら自分の誕生日を祝ってくれて、少し気持ちが明るくなった。
<<つづく>>
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