アルゼンチン1部のラシンに所属する33歳のアルゼンチン人FWアドリアン・マルティネスの人生は映画のようだ。
17歳のころ短期間だけビジャ・アカシアスというチームでプレーしていたが、22歳までサッカーは基本的に近所の草サッカーしか知らなかった。
ゴミ収集人、レンガ職人として生計を立てていたが、バイク事故でそれらの仕事も失ってしまった。
2014年、マルティネスを悲劇が襲う。18歳の弟が射殺され、復讐のために射殺犯の家に放火し強盗をした容疑で、無実であったにも関わらず投獄されてしまう。
彼は刑務所でひどい苦しみを味わった。
マルティネスは「あそこでは人が殺され、餓死させられる。少なくともオレがいたところでは、餓死する環境だった。家族が食べ物を持って来てくれなければ、オレは何も食べられなかったんだ」と語り、さらに内部抗争でナイフで刺されそうになった経験を過去のインタビューで明かした。
刑務所に入り6〜7カ月が経った頃、マルティネスの無実が証明され、彼は刑務所から出ることができた。
自由を取り戻したマルティネスは、サッカー選手としての機会を探し始めた。そして、4部リーグのデフェンソレス・ウニドス・デ・サラテ(CADU)でのチャンスが見つかった。
マルティネスは「コーチは、オレのコンディションがとても良いのを見て、どこのチームの下部組織でプレーしていたのかと質問してきた。オレは『家の近所でしかプレーしたことがない』と答えるしかなかった。また、どこから来たのか尋ねられた。オレは『刑務所にいた』と答えなければならなかった」と当時を振り返った。
マルティネスは無給という条件で2015年にCADUと契約。
彼が爆発的な活躍を見せるまでには2年かかったが、2017年には21ゴールを決めて3部リーグのアトランタに移籍し、公式戦で15ゴール(コパ・アルヘンティーナのリーベル・プレート戦でのゴールを含む)を決めた。
そこから彼のキャリアは飛躍的に成長した。
パラグアイのソル・デ・アメリカでの活躍で同国のスター選手となり、強豪リベルタに移籍。
2019年のコパ・リベルタドーレスのデビュー戦ではハットトリックを達成した。
セロ・ポルテーニョとブラジルのコリチーバへのレンタル移籍を経て、2023年にアルゼンチン1部のインスティトゥートに移籍。そこで、公式戦41試合で18得点を決め、アルゼンチンの強豪クラブの注目を集めた。
2024年、名門のラシンへの移籍を果たすと、これまで公式戦87試合に出場し50ゴールと活躍を続けており、コパ・スダメリカーナ2024優勝にも大きく貢献した。
そんなマルティネスが所属するラシンはコパ・リベルタドーレス2025の準決勝でフラメンゴと対戦。
10月22日(日本時間23日)に敵地マラカナンで行われたファーストレグでは試合終盤に失点を喫し0-1で敗れた。
しかし29日(日本時間30日)にホームのエル・シリンドロで行われるセカンドレグで逆転できれば決勝進出は可能な状況だ。
「マラビージャ(驚異的な、素晴らしい)」という愛称を持ち、エリートたちとは明らかに違うキャリアを歩んできたマルティネスが、南米クラブNo.1のタイトルを獲得する可能性はまだ残されている。



コメント